大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸家庭裁判所尼崎支部 昭和37年(家)97号 審判

申立人 三好芳雄

遺言者 福山豊彦(仮名)

主文

遺言者が昭和三十七年一月十五日別紙記載の趣旨の遺言をしたことを確認する。

理由

申立代理人は主文同旨の審判を求め、申立理由として、

遺言者は昭和三十七年一月十五日申立人住所の三好病院に胃腸疾患で入院中、死亡の危急に瀕し、証人として、申立人、当直医正木繁、受遺者の姉浜口芳子、受遺者福山トミヱが立会の上、申立人が遺言者の遺言内容の口述を受けて別紙遺言書(以下「本件遺言書」という)のとおりこれを筆記し、遺言者および証人等に読み聞かせ、各証人が筆記の正確なことを承認し遺言書に署名押印(但し、浜口芳子は指印)した。よつて、その確認を求める。と申述した。

当裁判所は、申立人(但し、一度取下げた当庁昭和三七年(家)第四一号事件で)証人藤井澄江、同浜口芳子、受遺者福山トミヱを審問した。

遺言者が別紙遺言書のとおりの遺言をしたとすれば、福山トミヱは受遺者にあたるから証人適格を有しないこと明らかであり、同遺言者に同人が証人として署名押印している部分は無効である。証人欠格事由に該る受遺者が証人として立会つた場合の遺言の効力は、受遺者が他の証人に対し証人立会を強制したり遺言内容に実質的影響を与えるような地位にある場合、その証入の立会もまた無効となるものというべきである。本件において、証人浜口芳子の証言によると、遺言者作成に立会つた証人浜口芳子は受遺者の実姉であることが認められるので、同証人の立会は前叙説示の点から無効というほかない。してみると、本件遺言書の証人は作成に当つた三好病院長である申立人と、当直医師正木繁の二名にすぎないことその記載から明らかであり、本件遺言書は民法第九七六条第一項の要件を具備しないといわざるを得ない。しかし、遺言が同条同項にいう証人三人の立会の要件を具備しない場合でも、遺言者が真意に基いて遺言したと認められる場合には、その確認をすることができると解するのが相当である。けだし、同条同項は同条第三項の文意からみて遺言が遺言者の真意に出たものであることを確保するための形式的要件にすぎないからである。よつて、本件遺言が遺言者の真意に出たものかどうかの判断をすると、申立人提出の各戸籍謄本、本件遺言書、および申立人、証人藤井澄江、同浜口芳子、受遺者福山トミヱ各審問の結果を総合すると、つぎの事実が認められる。

受遺者福山トミヱは昭和二十一年遺言者と挙式の上夫婦生活に入り、初め兵庫県三木市に居住し、遺言者は同所から大阪市の産経新聞大阪支社に通勤していた。トミヱは藤井澄江を連れ子として遺言者と生活しているうち、昭和三十年四月二十一日遺言者との間に、昌代をもうけたが、遺言者は当時すでに正妻ヨネとその間に二女あり離婚もできていなかつたため、トミヱの戸籍に庶子として届出をした。遺言者は、その頃大阪市えの通勤の便利なように、トミヱおよびその子等と遺言者の住宅として、本件遺言書に記載した土地約八〇坪を買入れ、その地上に家屋(建坪一三坪五合)を建築所有するに至り、以後トミヱ等は今日まで同家屋に居住している。トミヱは遺言者が死亡するまで、妻として遺言者と協力して来た。遺言者は自分が胃腸疾患のため死亡の危急に瀕していることを知り、昭和三十七年一月十五日申立人住所の三好病院で別紙遺言書の内容の遺言(前叙土地建物、および、産経新聞社からの約二〇年勤続による退職金全部をトミヱに贈与する旨。)をし、申立人がその口述を受けて筆記し、当直医正木繁もこれに立会い、遺言者および証人等に遺言書を読聞かせ、それが真実であることを承認して、申立人および同証人が署名押印した。

右認定に反する証拠はない。右事実によると、遺言者福山豊彦は真意に基いて本件遺言書のような遺言をしたものということができる。

よつて、本件申立は理由があるのでこれを認容し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 高木積夫)

別紙

遺言

福山豊彦

一、西宮市甲子園○番町○○の土地建物

二、退職金

右は福山とみえに譲与する

右遺言する

昭和三十七年一月十五日午後二時

於西宮市甲子園口○丁目○○○三好病院○号室にて

本人重症のため三好芳雄代理筆記する。

立会人 三好病院院長医師 三好芳雄〈印〉

当直医 〃        正木繁〈印〉

福山とみえ〈印〉

福山とみえの姉 浜口芳子 指印

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例